政治と世界遺産

 「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に指定されそうだという報道をきいて、素直には喜べない。政治的なにおいが充満しているからだ。

まず、この間の経過が異常なこと。世界遺産登録申請は、各国毎年1件。当初、今年度申請の最有力候補は「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」であったが、官邸の意向で「産業革命遺産」が途中から割り込んできて、ひっくりかえった。また、その後、政府をあげて、ユネスコへの根回しを活発におこなった、と報道されている。

なぜ官邸がこれほど力を入れたのか。そこに政治がある。国民の政治意識の背景には歴史認識がある。いまの日本をどうみるかは、いまに至る日本の歴史をどう評価するかの問題と表裏であるからだ。

安倍首相は、先のアメリカ議会での演説では、過去の戦争への「反省」は述べたが、周辺諸国への「おわび」は口にしなかった。この7月には発表される戦後70年談話がどんな内容になるか、村山談話を引き継ぐか、注目されているが、たぶんこの演説と同じになるだろう。

この問題には首相の異常なこだわりがある。首相の「信念」であり、これが「安倍史観」である。従軍慰安婦、靖国参拝も同じ。最終ゴール憲法9条改正へとつながっている。

「安倍史観」はこうである。明治維新以降の近代日本は、めざましい発展を遂げた。西欧列強の植民地にならずにすんだのは、国民の一致団結の力である。先の戦争は、そんな日本を守るためにはやむを得なかったものであり、祖国のために命を捧げてくれた英霊には、尊崇の念をもたなければならない。日本はすばらしい国だ、日本国民もすばらしい。われわれは日本人であることに、自信と誇りをもとう。

安倍首相は、この間、さかんに「日本を取り戻す」と言っている。その日本とは、このように描かれた日本のことで、「明治日本の産業革命遺産」は、そんな輝かしい日本の歴史のシンボルである。世界遺産となれば、世界からそのお墨付きをえたことになる。

私は、明治期日本がきわめて速いスピードで産業発展し、世界の歴史でも稀なものであったことは認めるし、それを評価することに異存はない。というのも私が学生時代、専門的に勉強したのはこの分野であり、その後も考え続けているからだ。

しかし、歴史は複合である。「稀なこと」は「異常」であったということ。封建社会から「市民」が生まれ、徐々に産業発展を遂げた西洋諸国と違い、日本は江戸の封建社会からいきなり明治維新を経て、産業革命を達成した。そのためには強大な国家が必要であった。幕藩体制は明治国家になり、初めて統一的な日本国民が形成されたが、国民一人一人の権利や自由、民主主義というものは認められず、人のありようは基本的に封建社会のままであった。「お上」には逆らってはいけない、という意識はいまに根強くつながっている。

また、「異常」な発展は、周辺諸国への侵略により可能であった。日本が西洋列強からの独立を維持できたのは、素早く列強に相乗りして、朝鮮、中国、東南アジアへと、勢力圏を伸ばしていったことが大きい。その先の列強間の戦争は必然の帰結であった。つまり、明治国家の産業革命遺産は、戦争に直結しているのだ。

だから、韓国は反発。世界遺産に決定しないよう、ユネスコに働きかけている。慰安婦問題同様の緊張の火種になっている。

今回の候補は8県23施設に及ぶのも異常。メインは、高島炭鉱、端島炭鉱(軍艦島)、八幡製鉄所、三菱長崎造船所などの産業施設と思われる。高島炭鉱は囚人労働で、長崎造船所は戦艦武蔵などをつくったことで有名。朝鮮などからの強制連行労働者も多くいたとされている。

この中に、産業施設とは関係のない、萩城下町や松下村塾まで入っているのは、違和感がある。いま放送されているNHK大河ドラマ「花燃ゆ」は、安倍首相のおひざ元であり、官邸の意向でつくられたと言われているが、またもや萩である。

そもそも、おととしの富士山に続いて、去年、冨岡製糸場が世界遺産に登録されたばかり。冨岡もまぎれもなく明治期産業遺産である。おそらく、これの申請には政治的背景はなかったと思われる。その後、これにヒントをえて、官邸が動いたのであろう。2年続けて、同類の申請をするのはおかしなことであり、またユネスコ側も、よくも受け容れたものと思う。政治的背景なくしては考えられないことである。

オリンピックも、世界遺産も、政治的に利用できることは何でも利用しようという、安倍首相の飽くなき姿勢がおそろしい。。

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プロフィール

Author:田中全(ぜん)
高知県四万十市(旧中村市)在住。
幡多と中村が自慢のおんちゃん。

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