景観と津波対策

10月4日、全国文化的景観地区連絡協議会四万十大会が開かれ、参加した。私が市長在職中に大会誘致を決め、1年前から準備してきたものだ。大会の主催は文化庁だが、準備全般の事務局は四万十市生涯学習課(公民館)が担当した。

文化的景観とは自然・風土の中で人の暮らしを通じて形づくられた風景のこと。つまり風景が文化財になるという、文化財の新しい概念である。現在、文化庁によって全国の35地区が文化的景観に指定をされている。
四万十川は、2009年、流域全体(5市町、5地区)が指定を受けた。流域全体が文化的景観に指定されているのは、四万十川だけである。
今回の大会は、この35地区を中心とする経験交流、研修会であり、全国から大勢の関係者がやってきた。

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 大会を通した議論の中で、私は一つのことに気づき、教えられた。大きな収穫であった。それは地震津波対策についてである。

 いま本市の最重要課題は、南海トラフ巨大地震対策である。あの東日本大震災のあとは、特に喫緊の課題として取り組んでいる。東海から九州沖縄にいたる長い太平洋沿岸において、この幡多地域が津波被害が最も大きいと予想されるエリアなのだ。

 津波において、一番の対策はすぐに高台へ逃げること。だから、市ではいま山などの高台への避難路、避難場所の整備を進めている。四万十川を遡上してくる津波に対して、河口の下田、初崎から、川の両岸、八束、竹島、古津賀にかけて150か所を選び、3か年計画(2012~14年度)で整備中だ。高台まで距離のある下田水戸と初崎には避難タワーを建設した。

 こうした津波避難路、避難場所の整備事業は市の地震防災課が主管し、全庁的な連携のもとに取り組んでいる。現場の作業は地元土木建設業者に発注することから、建設課や都市整備課との連携は特に重要だ。

 しかしながら、この事業は単なる土木建設事業ではない。文化事業でもある。
四万十川下流のこの地域にふさわしい新たな景観を創造する事業につながっているのだ。

沈下橋のことを考えてほしい。
沈下橋はいまでは四万十川を代表する風景、シンボルになっており、文化的景観の中心構成要素になっている。
しかし、この沈下橋をつくった当時は、だれもそんなことは考えていなかった。欄干がない、あんな形の橋をつくったのは、あくまで洪水対策のためである。四万十川は年中増水する。地元では水が出ると言う。しかし、大きな橋をつくるカネもない。ならばと、河川敷スレスレの高さに、安上がりの橋をつくったのだ。
この川と暮らしてきた生活の中で生まれた、合理的な知恵である。

今回、下田水戸に津波避難タワーをつくった。4年前、最初のタワーをつくったが、その後の東北の震災を受け、今年3月、さらに隣により高いタワーをつくり、二つをつなぎ合わせてツインタワーとした。こんな大がかりな構造のタワーは全国ほかにはない。

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場所は、地区からの要望、提案受け、江戸幕末、土佐藩が夷敵(外国)にそなえて築いた砲台跡とした。次の敵は津波というわけである。普段からみんなが知っている場所ならば、いざという時、すぐに集まりやすい。この場所の一角には、以前から神社もあり、地元になじみ深いところであった。タワーの下には縁台を置き、夏の夕涼みや盆踊りなどにも使われ、高齢化が進む地域のおばあちゃんたちの新たなたまり場になっている。
このタワーはお城のようなもので、はやこの地区のシンボルとして、地域に溶け込んだ風景になっている。
地域の新しい物語ができているのだ。

 その他、整備中の避難路についても、新たに山を削ったりするところはわずかで、大部分はすでにある神社、寺、墓などに続く道の整備だ。古い城跡(鍋島)や学校跡(竹島、実崎)、山神様の祠などもある。
そんな場所は、最近は近寄る人もなく、草木に覆われていたところばかりである。いずれも過去の流域の人たちの暮らしの中で大切な場所であった。そこの雑木や草を刈り払い、復元している。
先人がつくってきた風景や物語がいま甦ってきているのだ。
 
 地域の人々の生活の中でつくられるのが文化的景観である。だから、景観は時代とともに変わっていく。
津波対策事業は、地域の風景を決して壊すものではなく、過去の風景を復元し、また新たな景観や物語を創造するという視点からも取り組むことが重要である。
大変意義深い事業であると思う。

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Author:田中全(ぜん)
高知県四万十市(旧中村市)在住。
幡多と中村が自慢のおんちゃん。

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