カラツと唐津

私は趣味といえるかどうかわかりませんが、やきものに興味をもっています。といっても、陶芸教室のようなところで自分でつくるのではなく、できた作品を目で眺め、手でさわり、また買って使ったりすることにです。

 以前の仕事で岡山に勤務をしていた時、備前焼に出会ったのがきっかけですが、その後福岡ですごした三年間でその魅力にはまり込んでしまいました。

 福岡周辺の北部九州には伝統的な窯場がたくさんありました。福岡県の上野(あがの)、高取、小石原、佐賀県の有田、伊万里、唐津、長崎県の波佐見、大分県の小鹿田(おんた)、熊本県の小代、山口県の萩など、高速を使えば車で日帰りができるので、休日にはよく出かけました。

 その中で最も多く通ったのが唐津でした。唐津は、福岡市(博多)から玄界灘に沿って一般国道を車で走り、約一時間の距離であり、隣町という感じでした。虹の松原に代表される美しい海岸線、唐津城下の古い街並み、唐津神社の秋祭り「唐津くんち」、そしてイカなどのおいしい魚で有名ですが、その名の通り、歴史を遡れば唐(中国)につながる津(港)であり、大陸文化流入の痕跡を多く残しています。

 唐津焼もその一つです。室町末期の安土桃山時代、豊臣秀吉による朝鮮出兵(文禄、、慶長の役)で連れて来られた朝鮮(李氏王朝)の陶工たちによって伝えられたものです。岸岳の麓などに古い窯跡が残っています。
千利休により始められた茶の湯の世界では「一楽、二萩、三唐津」と呼ばれたように、唐津でつくられた碗や皿などは京を中心に全国に流通していました。

唐津焼の特徴は、地元でとれる独特の砂気まじりの粘土を使って、斑唐津、絵唐津、朝鮮唐津、三島唐津と呼ばれるような多様な技法があることです。いずれも「侘びさび」の世界に通ずる、李朝風の雰囲気をかもしだしています。
今ではあまり聞かなくなりましたが、私が子どものころには、陶器や屋根瓦のことをみんな「カラツ」と呼んでいました。その「カラツ」が「唐津」であったことに、恥ずかしいことですが、その時はじめて気付きました。「セトモノ」が「瀬戸物」(愛知県の窯場)であるのと同じです。

 やきものは土と炎の芸術です。土も炎も人間の原点のようなものです。人は土に生まれ、土に帰ります。やきものの魅力は、その作品を通して、それをつくった人を知り、それが生まれた風土、自然、歴史などにふれることができることにあります。

 私は唐津で最初の頃は、やきものを商店街の店などで買っていましたが、そのうちにそれでは飽き足らず、作品をつくっている作家を訪ねるようになりました。作家は山の中に窯(登り窯や穴窯)をつくり、薪を焚きながら、土と一緒の生活をしています。いまでも、年賀状などで親交が続いている浜本洋好さん、川上清美さん、藤ノ木土平さんなどは、みんな個性的で、世俗的な価値観から超越をしたような、人間的魅力にあふれていました。

 太平洋の透き通るような青しか知らなかった私にとって、博多から唐津がある松浦半島一帯にかけての日本海の黒ずんだような濃いブルーは、大陸につながる異国の色であり、その象徴が唐津のやきものでした。

 私は福岡のあと札幌に異動になりました。北海道は一転して新しい国であり、伝統に縛られない自由な活動をしている陶芸家たちを広い道内に訪ねる旅もゆかいなものでした。

 その後は東京に戻り、勤務の最後は大阪で迎えましたが、都会では都会なりの楽しみ方がありました。全国の陶芸家たちが個展などの作品展示会を開くからです。あちこちのデパートや美術画廊、陶芸の店などで開いていました。そこで親交のある陶芸家に再会をしたりしました。

 東京からは、近郊の益子(栃木)、笠間(茨城)に出かけましたし、全国に出張の多い仕事でしたので、そのついでや大阪時代を通して、六古窯(常滑、瀬戸、越前、信楽、丹波、備前)も訪ねました。

 四国には窯業地は多くありませんが、砥部(愛媛)、大谷(徳島)のほか、もちろん高知県内の内原野(安芸)、能茶山(高知)にも立ち寄っています。どこに行っても、私が買うのは徳利やぐい呑みなどの酒器が中心です。

 地元に帰って来てからのこの四年間は、やきものを楽しむ余裕などありませんでしたが、これからは時間ができそうなので、またあちこちの窯場に出かけてみたいと思っています。

最初に行きたいのは、もちろん唐津です。
斑唐津のぐい呑みほど、底知れぬ深みと風格のあるものはありません。
                  
  「文芸なかむら」26号(2013年7月)

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Author:田中全(ぜん)
高知県四万十市(旧中村市)在住。
幡多と中村が自慢のおんちゃん。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR