兼松林檎郎

 12月21日は、南海地震から70年目の日であった。全国で最も多い死者286人を出した中村では、南海地震を語る場合、この人の名前が必ず出る。

兼松林檎郎は、戦後間もないころの青年団運動のリーダーであった。昭和20年8月の敗戦の翌9月、早くも中村町青年団を結成し、団長に。当時27歳(大正7年生)。

昭和21年3月、幡多郡連合青年団、22年3月、高知県連合青年団へと組織を広げ、それぞれ団長に就いている。

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林檎郎が、いつも訴えたのは「団結すれば立ち、分裂すれば倒れる」。

その活動のシンボルが、南海地震被災からの復旧支援活動であった。震災直後、道路寸断の中、高知市から海路下田に着いた救援物資は地元青年団による人海戦術で町に運ばれた。さらに、継続して幡多郡の青年団は中村に救援隊を派遣した。

いまでいうボランティア活動だが、特筆すべきは、それだけにとどまらず、青年団は行政をリードし、戦後復興の一翼を担ったこと。

その一つが、愛育園を立ち上げたこと。被災後の子どもたちを預かるために、青年団で土地を求め、バラックの施設をつくった。県の認可もえて、正式の保育園として認めさせた。役員は無報酬で運営。当時、青年団がつくって保育園として全国から注目を浴びた。

この愛育園は、その後中村町→中村市に移管された。現在も、同じ場所、同じ名前で続いている。公立の保育園としては、めずらしい名前となっているのは、そんな経過による。

いま、中村市街地にある、この「愛育園」と「もみじ保育園」の統合計画が進んでいるが、こんな歴史のある愛育園の名前は、ぜひ残してほしいと思う。

もう一つが、幡多公民学校の設立。正式名称は、「幡多郡連合青年団立 幡多公民高等学院」。戦後の混乱の中、向学心があっても経済的事情で高校へ行けない青年のために、授業は毎月1週間、年限3年の学校をつくった。

学校法人として認可も受け、卒業生は高校卒の資格が与えられた。講師陣は中村高校教員中心に、各分野から応援参加した(簿記の幸徳正三税理士氏など)。学院は10年間続き、多い年で1学年50~60人集まった。清水、北幡など、遠距離青年のために合宿施設も併設した。

こうした、一般的な青年団活動の領域を超えるような取り組みができたのは、林檎郎の指導力によるところ大であった。

しかし、林檎郎は戦時中から結核をわずらっていた。1954年(昭和29年)1月、36歳で没する。痩身色白の姿のどこ、そんなエネルギーは潜んでいたのか。短い時間とわかっていたからこそ、命を燃やしたのだろう。

1967年(昭和42年)、「幡多郡青年」(当時の仲間たち)は、中村城跡三の丸に「兼松林檎郎をたたえて」の碑を建てた。「南海大地震記念碑」のとなりに。

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いま、林檎郎を知る人はわずかになった。今回、そんな何人かに話を聞いた。また、1993年(平成10年)にまとめられた「青春の軌跡―幡多郡連合青年団活動の記録」も読んだ。

いま聞く林檎郎はカリスマ的であり、かなりの部分神格化、偶像化されている。

なぜか。戦争から解放され、新しい時代へ急旋回する、混乱と混沌の時代に、救世主のように突然現れ、あっと言う間に消えてしまったからであると思う。

一方で、彼の思想と行動は、「犠牲的奉仕活動」の域を出ず、社会の矛盾を追求し、変革をめざすような広がりをもっていなかった、という話も聞いた。

公民学校は自分の家の敷地を提供して建てたものであり、合宿青年の賄は母親、妹などが家族ぐるみで対応した。場所は、小性町のいま中村病院があるところで、そこには戦前父親が経営していた兼松病院があった。彼は家の財産を「食いつぶした」のだ。

彼は「政治」からは一線を引いていた。

しかし、昭和30年代後半から40年代、彼の指導や影響を受けた青年団活動家たちの中から、幡多郡下自治体に「革新首長」が多く生まれている。

「三川」と言われた、長谷川賀彦(中村市長)、矢野川俊喜(土佐清水市長)、小野川俊二(大方町長)のほか、中平幹運(西土佐村長)などである。

また、教育の分野でも、生活に密着した綴り方運動や、勤評反対運動などが、幡多郡で大きく盛り上がった背景には青年団運動があり、その中心に林檎郎がいたことは間違いない。

私は実物の林檎郎を知らない。伝説化された林檎郎しか。

しかし、その名前を知る人すらも少なくなってきている。誰かきちんとした記録を残してほしいと思う。

兼松家墓は市内右山にある。

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プロフィール

Author:田中全(ぜん)
高知県四万十市在住。
幡多と中村が自慢のおんちゃん。
幸徳秋水を顕彰する会事務局長。
FB(フェイスブック)もやっています。

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