続々 西村ルイのこと  秋水最初の妻(1)

  正 2015. 7.23~25
  続 2015.12.26~30

 「文芸なかむら」に二回投稿して以降判明したことや、新たな展開を中心に書かせていただきたい。

 私は今年四月下旬、西村家のルーツ、歴史を調べるため、福岡県黒木町(現八女市)を訪ねた。黒木町は柳川市で有明海に注ぐ矢部川の上流、熊本県境の奥八女と呼ばれる山の中であった。八女茶発祥の地といわれるお茶どころで、さらに奥に遡れば大分県に続く。

 西村ルイは明治十五年ここで生まれた。しかし、父正綱は一家を引き連れ、同二十二年福岡市へ出て、さらに同二十七年(ルイ十二歳)、旧久留米藩士が先に入植していた福島県安積開墾地に移っている。西村家は江戸時代から続く黒木町屈指の「豪家」であったといわれていたのに。その理由は謎である。

 私は西村家現当主の賢一氏(佐賀県鳥栖市在住)と、黒木町在住郷土史家和田重俊氏にあらかじめ連絡をとり、現地で合流した。お二人とは一年前から電話と手紙で情報交換をしてきたが、お会いするのは初めて。

 最初に西村家墓地を案内してもらった。墓地は宗真寺(浄土宗)の裏山の杉林に囲まれた一段にあった。私はオッとうなった。墓石が縦横に「群れ」をなしていたのだ。その数約三十。木漏れ日の中に黒光りする異様な霊気を感じた。

 墓石は奥から古い順に並んでいた。一番古いものは元禄時代。古い墓石は戒名だけのものが多く、実名がわかるものでは、長兵衛藤則、長兵衛藤光、宗右衛門藤光らの名があった。これまでの調査で名前がわかっていたルイの前の四代、正綱、恕平、良平、二兵衛の墓は手前のほうにあった。『篤行傳』に紹介されていた仁兵衛、良平親子とは、二兵衛のことであろう。

 幕末に書かれたと推定される久留米藩主有馬家文書に主要家臣の家系を記した「御家中略系譜」があり、その中に「西村家」があるが、今回その記述が墓に刻まれた名前と一致することがわかった。

 「略系譜」によれば、西村家は元の姓藤原で本国は近江の国。関ケ原の戦いで東軍についた三河岡崎城主田中吉政が功労により慶長六年(一六〇一)、筑後国柳河城に移ったさい、吉政に従ってきた奉行西村五右衛門正常が始祖であった。

 五右衛門は黒木にあった旧城(猫尾城)を任せられた。しかし、田中家は後継ぎがなく二代で改易に。田中家のあと黒木を治めることになった有馬家からも仕官を求められたが、西村家二代目宗右衛門藤正はこれを辞退し、そのまま黒木に土着した。

その後、三代仁兵衛藤義、そして墓のあった四代長兵衛藤則に続いていた。そして、五代長兵衛藤光、六代宗右衛門藤輝・・・この頃有馬家家臣となった。

 しかし、墓があるのは七代二兵衛久隆までで、八代簡治文禮以降はなかった。代わって、簡治の弟良平の墓があり、恕平、正綱と続いていた。おそらく、簡治は久留米城下に居を移し、黒木には弟良平が残り、実質的に黒木の西村家は良平が継いだものと推測される。

 ルイは福島入植二、三年後に秋水と結婚。父正綱は入植九年後没。長男軍次郎(ルイの兄)は、その後東京に出て繊維関係の事業を始めた。しかし、関東大震災で失う。息子稔(賢一氏父)は朝鮮に渡り電話関係の仕事につき、敗戦後福岡県に引き揚げてきた。稔は、昭和五十六年、西村家墓地に納骨堂を建て、東京から軍次郎の遺骨を移した。後に、自分も入った。

 郷土史家の和田氏から見せてもらった元禄十三年(一七〇〇)古地図に長兵衛の名が載っていたことから西村家屋敷跡も特定できた。

 場所は町の中心素盞嗚(すさのお)神社の前。同神社境内には樹齢六百年といわれる藤の大木があり、ちょうど花が満開で多くの観光客で賑わっていた。実は今回、有名なこの藤の花の満開の時期に合わせて訪ねたのだった。

 神社に面して後藤酒造という延宝五年(一六七七)創業の古い酒蔵があった。ここの酒の名はなんと「藤娘」。その隣が西村家屋敷跡であった。

 九十五歳の町の古老から、西村家は徳が厚く、屋敷には井戸が五つあったという言い伝えを聞いた。

 黒木町の「町の花」は藤であり、合併後の八女市もこれを引き継いでいる。中村市→四万十市と同じである。

 西村正綱は西南戦争で西郷方に肩入れをして財を失ったと言われているが、福島に渡った理由はそれなのか。ほかに理由はなかったのか等は、今回調査ではわからなかった。

 しかし、秋水の縁に藤の縁。今後両地の交流を深めたい、また訪ねたいと願って帰ってきた。(続く)


 「文芸はた」 創刊号 2016.12

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プロフィール

Author:田中全(ぜん)
高知県四万十市(旧中村市)在住。
幡多と中村が自慢のおんちゃん。

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