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鳥帰る

このほど山陰を旅したさい、訪ねたいところがあった。鳥取県倉吉市。

かつてNHKドラマ「鳥帰る」の舞台になったことから、どんな町なのか、一度立ち寄ってみたいと思っていた。

「鳥帰る」は1996年に放送された単発の山田太一作品。もう22年たつ。

私は人間の心の機微をていねいに描く山田作品のファンである。以前は、NHK、民放を問わず、たくさんつくられていたが、高齢のためか、さすが最近は少なくなったのがさみしい。

山田作品の中の最高傑作が「鳥帰る」だと思う。書き下ろしの脚本がいいうえに、伊豫田静弘の演出もいい。

主演は田中好子。キャンデーズのスーちゃんとしてアイドルであったが、女優になり、この年は40歳となっていた。

田中好子は2011年、多くのファンに惜しまれて55歳で亡くなった。その年、追悼番組として、NHKがこのドラマを再放送したのだから、彼女の代表作品として位置付けられているということだ。

山田太一がインタビューで田中好子は女優としても素晴らしかった、この作品では円熟していたと評していた。

主人公の麻美は母と子1人であったが、母(香川京子)の反対を押し切って、男を追っかけ家を出た。しかし、結婚生活は4年で破綻。東京に捨てられた。

他に頼るところもなく、傷心の思いでふるさと倉吉に帰ってくる。しかし、母の前では正直になれない。うそと強がりを言う。

母のほうも心が開けない。すぐにぶつかり、また飛び出す。…「孤独」と「家族」のはざまで揺れる人間のこころ。

倉吉は赤瓦と白壁土蔵群のコントラストが映える、しっとりとしたまちであった。蔵の裏には玉川が流れ、そこにかかる石橋。ドラマでは、ここで母子が雪かきするシーンがあった。

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戦火にあわなかったこのまちには、江戸~明治~大正~昭和の歴史がそのまま残っている。国の重要伝統的建造物群保存地区指定。酒蔵、醤油蔵、はこた人形、倉吉絣、因州和紙、やきもの、横綱琴桜記念館・・・ドラマに出てきた商店街のアーケードはすでに取り払われていた。

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意外だったのは、観光案内所やお店の人たちに「鳥帰る」の話をしても、誰も知らなかったこと。観光パンフなどにも紹介がない。

パンフは、もっぱら寅さん映画のことを紹介していた。第44作(1991年)「寅次郎の告白」(相手役・吉田日出子)のロケに使われた。

私はこの作品を見たことがあるが、倉吉が登場していたとは気づかなかったので、家に戻ってから見直した。確かに倉吉ではあったが、鳥取のとある町という設定になっていたのでわからなかったのだ。

また、韓国ドラマ「IRISーアイリス-」のことも紹介されていたが、このドラマのことはまったく知らない。

私は不思議に思った。
なぜ、これだけの名作「鳥帰る」であるのに、地元の人が知らず、まちの紹介にも活用していないのか。もったいない話である。

寅さんの映画では、旅の途中でふら~と立ち寄るという設定である。しかし、「鳥帰る」では主人公が生まれ、愛憎がしみついたまちという設定であり、作品の中での位置づけの重さが違う。

はやり、山陰の人たちは遠慮深いのか。地元の代議士石破茂は慶應学生時代、キャンディーズの追っかけをしていたことは有名であり、話題のネタにもなるのに。

そんなモヤモヤな気もちでまちを歩いていたら、2カ所にドラマの痕跡を発見した。倉吉いか工房と森田醤油屋さん。ご主人2人は知っていた。

「いか」とは凧のこと。もともと空に揚げる凧は、関西ではいかと呼ばれていた。関東ではこれに対抗してたこ(凧)と呼んだとか。ドラマに出たという「いか」が展示してあった。

醤油屋さんには、主役のもう一人、杉浦直樹のサイン色紙があった(渥美清も)。ロケ宿舎からおみやげに醤油を買いに来たという。杉浦直樹もすでに故人だ(田中好子と同年、追うように逝った)。

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証拠物件2つを見つけ、ホットした。

前の日、松江から倉吉に向かう途中には、米子水鳥公園にも立ち寄った。中海湿地帯に飛来するたくさんの鳥たちを観察できるところだ。正面には大山がそびえ立つ。

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この公園はドラマのラストシーンに出てくる。季節は冬。4年ぶり母との再会も居づらく再び飛び出した麻美。どこにも行くところがなく、この公園にやってくる。

しかし、昼間なので肝心の白鳥はいない。シーンとしている。さみしさがこみあげてくる。絶望の底に落とされ、じっとうつむいたまま。

すると、夕暮れ迫るころ、周囲のたんぼなどにエサを探しに行っていた白鳥の群れが一斉にねぐらに帰って来る。けたたましい鳴声をあげて。 

ビックリして、鳥を追いかけると、そこに母が立っていた。帰省の列車で偶然一緒になった木崎(杉浦直樹)が仲立ちして、母を連れてきたのだ。

唖然とする麻美。みるみる目から涙が。そして母に抱き着く。

     鳥帰る いずこの空もさびしからむに

安住敦の俳句が字幕で紹介される。作品はこの句からイメージを膨らませてつくられたそうだ。(「鳥帰る」は春の季語)

いろんなところに行っても、鳥は必ず巣に帰ってくる。

念願のドラマの舞台をこの足で踏めて、いい旅の締めになった。

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プロフィール

Author:田中全(ぜん)
高知県四万十市(旧中村市)在住。
幡多と中村が自慢のおんちゃん。
フェイスブック(FB)もしています。

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