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遍路道から

四国巡礼において土佐は「修行の道場」。札所の数は十六と四県で最も少なく、太平洋に面した長い海岸線をひたすらに歩く。

中でも四万十町(旧窪川町)の三十七番岩本寺から三十八番金剛福寺(土佐清水市足摺岬)までの距離は八十七キロと最長で、歩きで三日かかる。

窪川から片坂を下ると黒潮町(旧佐賀町、旧大方町)に入る。南海トラフ地震津波高予想国内最高三十四メートル地帯だ。

入野松原を抜けると四万十市(旧中村市)に至り、ほどなく四万十川にぶつかる。河口から四キロ地点。最下流にかかる四万十大橋(別名アカメ橋)を渡る。

ここまででやっと岩本寺から四十九キロ、足摺はまだ先。さらに川の土手を黙々と下る。その土手下に私は住んでいる。

お遍路の姿は地元の者にとっては日常風景だ。春と秋に多いが、開創千二百年を機に最近増えている。

特に目立つのが外人さん。キリンが首にカバンをぶらさげて歩いているよう。

そんなお遍路は、私が子どものころは不気味であった。

一人家にいる時、チリンチリンと音がするとドキンとする。また来た。母に言われていたとおり、小さな飯茶碗に米を一杯入れて外に出る。薄汚れた装束でブツブツと何か言いながら片手を顔の前に当て立っている。菅笠の中の顔は見えない。首からたらした布袋の中に米を恐る恐る入れてやる。一礼をして消えていく。

ほっと一息。

いろんな事情をかかえ歩いている人が多く、中には生活の糧を得るためだけの人もいたから、警戒をされていた。

しかし、今はそんな人はいない。逆に、時間とお金と体力がある恵まれた人たちが多いときく。

今のお遍路も長旅を続けているので、決してきれいな格好とは言えないが、白装束姿のほか、それぞれ工夫した個性的な出で立ちで歩いている。杖だけは必携品。

私はすれ違う時「お気をつけて」と声をかける。必ず「ありがとうございます」と返ってくる。時には「どちらからですか」とも聞く。

そんな日常の繰り返しであったが、三年前、あるお遍路が現れ、状況は変わった。

二〇一五年四月、私の携帯が鳴った。金庫の元上司篠塚勝夫さんからだった。いま黒潮町を歩いていると言う。驚いた。

翌日、四万十大橋たもとで待っていると、白装束に菅笠をかぶったお遍路が杖をつき、ニコニコと近づいてきた。

篠塚さんには福岡支店長時代仕えた。こわい上司であった。一九九六年、住専最終処理のころで、私は業一課長をしていたので、特にきびしく「ご指導」をいただいた。

毎週月曜日、早出の管理職会議が一番しんどく、前日夕方からブルーになった。

そんな篠塚さんであったが、出来の悪い部下は気になるのであろう。私が地元に帰り四万十市長選挙に出た際はカンパを送ってくれたり、また市長になってからも時々電話がかかり様子をきいてくれたりしていた。約十年ぶりの再会であった。

その日半日は歩きを休んでもらい「ご接待」。市内各所をご案内し、夜はわが家に泊まってもらった。

古稀になられたのを機に一番から通しで歩かれているとのことであったが、その夜は金庫時代の思い出話に花が咲いた。

一年後、篠塚さんから旅日記をまとめた『古稀の歩き遍路千二百キロ 同行二人とお接待の四八日間』というタイトルの本が届いた。さらに、翌年には『二度の人生 第三生活の日々』という本も。

そこには私が知る篠塚さんとはまるで違う人がいた。生い立ち、家庭の内情。いまは地元千葉県佐倉市で自治会や障害者就労支援活動を中心に、東北震災ボランティアにもたびたび出かけられている。

第一生活「学び・習得の時代」、第二生活「職業を通しての社会貢献の時代」ならば、リタイヤ後は第三生活と位置付け。

金庫時代にもお聞きしたことがあるが、篠塚さんは同郷(下総国)の先人伊能忠敬を人生の師としておられる。

忠敬は家業隠居後、地図づくりを学び始め日本中を歩いた。二つの人生をもつ。

今年は忠敬没後二百年で、高知新聞が土佐国測量記録を特集している。そのルートは奇しくも遍路道と一致していたので、篠塚さんに記事をお送りした。

篠塚さんにとっては師の足跡をたどる旅でもあったのだ。

では自分はどうなのか。

五十五歳で念願の地元に帰ってきた。運よくすぐ市長の職に就くことができた。ふるさとのために苦労ができることのよろこび。しかし、再選はならなかった。

やりたいことはまだたくさんあり、不完全燃焼であったが、地元に根を張れば、できることはほかにいくらでもある。

ブログ「幡多と中村から」で情報発信しながら、二つ目の人生をもがいている。

お遍路では昨年、俳人黛まどかさんとの出会いもあり、近刊『奇跡の四国遍路』(中公新書クラレ)に書かれている。

金庫先輩針金健治さんも二〇一二年歩き遍路をされたそうです(本誌一一九、一二〇号)。会員各位におかれましても、わが家近くを通られるさいは、ぜひご一報くださるようお願いいたします。

  燕来る水平線を盛り上げて
          (まどかさん)

   篠塚勝夫さんと(2015年4月)

   農林中央金庫旧友会「金声」130号(2018年11月)

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プロフィール

Author:田中全(ぜん)
高知県四万十市(旧中村市)在住。
幡多と中村が自慢のおんちゃん。
フェイスブック(FB)もしています。

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