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続 中村政則の歴史学

  中村政則の歴史学

恩師中村政則先生が79歳で亡くなられてから早や3年が過ぎた。

このほど先生の学問的業績を評価、検証した追悼本『中村政則の歴史学』(日本経済評論社)が出版された。

中村先生との出会いは1972年入学直後、前期小平での日本史の授業。受験勉強から解放されたばかりで、高校時代あまり好きではなかった日本史なんて、いまさらと思ったが、単位消化のためと割り切ってとった。

最初の講義は日本資本主義論争について。昭和初年、講座派、労農派に分かれての一大論争。初めて知った。

歴史学とは退屈な暗記の学問であるぐらいにしか思っていなかった私にとって、助教授になられたばかりの若き先生の熱のこもった講義は衝撃であった。  

歴史に論争があるなんて。グイグイ引き込まれた。ベトナム戦争、沖縄返還、日中国交回復。学生大会による1カ月ストの洗礼を受けた時は、先生の講義がないのだけは残念だった。

後期はもちろん中村ゼミに。昭和初期の農村経済調査のため、山形に行き、みんなで報告を学生研究誌「ヘルメス」にまとめたのが未熟な痕跡として残っているはずだ。

私は研究の途に未練はあったが卒業後就職(農林中央金庫)。先生追悼本は大学院に進んだ同世代の先輩、後輩たちが中心になって編集をした。

本帯には「近現代史研究の中心的存在であった中村政則。日本資本主義史、天皇制論、地主制史、民衆史など、人々を魅了した多岐にわたるその仕事をさまざまな角度から再評価し、歴史学での位置づけを問う」と書かれている。

先生が切り開いた歴史学の方法は、「研究課題の明確な設定」、課題間の有機的連関の把握」、「研究の方向性の明示」にあるとされる。

その問題意識の原点は、よく聞かされたことだが、国民学校で学童疎開していた群馬・草津から自宅のある新宿に戻ったら、一面の焼け野原に伊勢丹だけがポツンと建っていた、その荒涼とした光景であった。

だから、先生の学問の根底には、非戦、平和、民主主義があり、新憲法への期待、擁護が貫いている。

先生のたくさんの著作、論文の中であえて代表作をあげるとすれば『労働者と農民』(小学館「日本の歴史」29、1976年)。戦後歴史学の記念碑的作品であるという評価では一致している。

この本は先生が初めて挑んだ通史であり、いかに歴史を記述するか、その方法で悩んだ末にひらめいたのが手元にためていた生の人間からの証言、聞きとりテープであった。

それまで一般的であった通史的叙述をやめ、日本資本主義の歴史的特徴(労使関係等)をもっともよく示している職業階層として、女工、坑夫、農民に対象を絞り、「人間の主体的行動と客観的な構造との統一」をめざしたものであった。

この原稿を書かれたのは、私が四年生の時であり、夏休み後のゼミで、やっと書けたよと、満足感を漂わせておられたのを思い出す。

1999年一橋退官(神奈川大学移籍)を機に、先生を囲んだゼミ卒業生の親睦組織「せいそく会」が発足。私も幹事としてお手伝いをさせてもらった。

私は55歳で退職し、ふるさと高知県四万十市に帰り、第二の人生に挑戦した。私が市長時代の2010年、四万十市民大学に先生ご夫妻をお迎えし、当地に関連したテーマ「坂の上の雲と幸徳秋水―司馬史観を問う」を願いした。講演後、四万十川や足摺岬をご案内し、喜んでいただいた。

あのころの一橋は、日本史学会をリードする教授陣であふれていた。中村先生は経済史中心の近代史、ほかに中世史の永原慶二先生、幕末社会史の佐々木潤之介先生、思想史の安丸良夫先生、現代史の藤原彰先生。

そこで私が学んだのは、歴史を学ぶとは自分の生き方を考えること。歴史にどうかかわっていくかが鋭く問われるということ。

人の思想や行動の背景には歴史認識や歴史観がある。だからいつも歴史教科書が槍玉にされる。歴史学はきわめて実践的な学問である。

いまの日本の政治経済状況を歴史の中にどう位置付け、どう対するのか。私はこれからも中村先生に学んだ歴史学を座標軸にして生きていきたい。

先生は前期でも講義をされていたので、学部を問わず受講した方も多いと思う。先生追悼本をぜひ読んでほしい。
 (元四万十市長)


「如水会々会報」1054号 2019年3月
「橋畔随想」

中村政則の歴史学 http://hatanakamura.blog.fc2.com/blog-entry-482.html

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Author:田中全(ぜん)
高知県四万十市(旧中村市)在住。
幡多と中村が自慢のおんちゃん。
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