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秋水と小澤征爾ファミリー

今日は天皇の「即位礼正殿の儀」が皇居で行われたことから、この日に合わせて書いておきたい。

私はNHK「ファミリーヒストリー」をよく見る。有名人の家系の紹介番組だが、それだけにとどまらず歴史研究者等の解説を交えながら、それぞれの先祖が歩んできた時代背景に迫る視点をもっているからだ。

有名人とはいえ、いまうるさい個人情報というデリケートな問題そのものを扱う訳だから、家系の調査等は慎重、綿密かつ正確でなければならず、さすがNHKだと思う。民放では、これだけ手間ひまのかかる番組はつくれないであろう。

そうした中、本年8月12日放送「小澤征悦(ゆきよし)」において、オヤ? と思う場面があった。幸徳秋水が出てきたのだ。

小澤征悦は俳優で、小澤征爾の息子。征爾のほうがはるかに有名であるが、いまガン闘病中であるため、息子を前面にしたのであろう。

小澤家のルーツは山梨県西八代郡高田村(現市川三郷町)。征爾の祖父新作(文久2年=1962年生れ)は農家で、消防組頭をつとめるなど村のまとめ役であった。笛吹川が氾濫したさいには、率先して堤防を築いたりした。

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番組では、征爾の従兄(開作の弟の息子)の小澤清さん(88歳)という人物が出てきて、「どういうわけか うちのおじいさん(新作)が(幸徳秋水を)かくまったって言うんですよ」「当時 幸徳秋水をかくまうなんてことは普通できないじゃないですか」という証言をした。おじいさんは「人並外れた義侠心のある人」だったとも。

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この場面は番組の冒頭に近いところで突然出てきたが、すぐ画面は変わり、以後秋水に関連するストーリー展開はなかった。

征爾の父開作(明治31年生れ)は東京に出て来て歯科医になり、満州に渡る。昭和10年、奉天で征爾が生まれる。開作は満州国建国にかかわった要人との深い交流があって、征爾の名前は、板垣征四郎と石原莞爾(ともに軍人)から一字ずつもらったものだ。

征爾は戦後ピアノを通して音楽の才が認められ、国際的な指揮者になるのだが、番組の本題とは別に、私は秋水の紹介のされ方に疑問をもった。

1. 秋水が大逆事件で刑死したのは明治44年であるから、新作が秋水と接触したとすれば明治30~40年代と思われるが、そのころ秋水が山梨県に行ったという記録は残っていない。

2. そもそも、秋水が「かくまわれる」理由がない。のちの昭和の治安維持法、特高警察の時代とは違い、秋水の時代は、官憲から逃げ回る必要はなかった。危険思想とされ、尾行されたりはしているが、ビクビク逃げるという状況ではなく、堂々と出歩いている。この証言では、秋水はまるで犯罪者、逃亡者だ。

3. 秋水が突然出てきて、消える。秋水につながるような新作の思想、行動、生活等の紹介もなく、不自然な編集である。

私が思ったのは、当時、秋水の非戦、自由、平等、博愛思想は、平民新聞等を通して、地方にも知られて、新聞読者になった者もいたことから、新作も秋水思想に共鳴し、一定のシンパシーをもっていた。そのことに、尾ひれがついて、このようは誇大な話ができあがったのではないか。

しかし、NHKのことだから、郷土史家や秋水研究者らの意見を聞くなど、一定の裏付け作業をしたうえで、ある程度の確信をもったから、この証言を採用したのかもしれない。それならば、私が知らなかった新しい知見であり、今後の秋水研究を深めるためにも貴重な記録となる。

こんな疑問をもったので、私は9月4日付で、NHKホームページの番組意見窓口にメールを打ち、回答を求めた。

しかしながら、NHKからの反応はなかった

次に、私は9月27日付で、NHK「ファミリーヒストリー担当者」宛、同内容の手紙を郵送した。

しかし、回答はなかった。

そこで、私は10月15日、NHK高知放送局を訪ね、企画編集部職員に会い、この内容を口頭で伝え、局長あての手紙(本局に照会をしてほしい旨)を預けた。

すると、10月17日、「番組制作責任者」から電話がかかってきて、以下のような説明を受けた。

1. 再度、証言をした小澤清さんに確認をしたが、このような話を聞いたことは間違いないと言う。他の一族の人も、また身内以外の人も同じことを聞いているという。本人の自慢だったようで、死ぬまで語っていた、と。

2. 秋水を援助した、助けたという話も出てきた。しかし、いつ、どこで、どんな方法で、ということはわからない。

3. 本人は、仕事で全国あちこち行ったことがあるみたいで、東京にも出ていたことがあるかもしれないが、はっきりしたことはわからない。

4. 「秋水との接点」「かくまったこと」について、研究者などに問い合わせるなどの裏付け調査はしていない。

5. 裏付け作業をしないまま放送をしてしまったことに対してお詫びをする。本番組は今後再放送の予定もないし、アーカイブスでも見れないようになっているが(番組全体がそういう扱い)、仮に再放送をする場合は、当該部分をカットするか、編集(説明)を加えたうえで放送させてもらう。

私の推測では、新作は秋水とどこかで(たぶん東京)接点があり、何らかの援助(資金カンパなど)をしたのかもしれない。そのことを本人は自慢話として「かくまった」と誇張し話したのか、または言い伝えられる過程でおおげさな話になったのであろう。

NHKはこの話を聞いて、これはおもしろいと思い、裏付け調査をしないまま、番組のストーリーとは関係がないが、ワンカットだけ入れた。オッと思わせ、番組にアクションをつけるために。

今年から天皇は代替わりし、5月1日から元号が令和に変わった。今日の「即位礼正殿の儀」は、神話に由来する「高御座(たかみくら)」から即位を宣言する様式であり、宗教儀式そのものであるにもかかわらず、政府はこれを国事行為として挙行した。政教分離を定めた憲法に違反することは明らかである。

秋水は戦後廃止された旧刑法73条の「大逆罪」によって抹殺された。天皇を殺そうとしたという、国家権力がつくりあげた物語によって。

今日は安倍首相の発声で「天皇陛下万歳」が行われた。国民主権に反する、壇上の天皇を見上げる形で。秋水を殺した天皇制はいまも続いている。

このような状況下、NHKは無神経にも、検証、裏付け作業をしないまま、ただおもしろい話だからという理由だけで、幸徳秋水を犯罪者扱いにするような間違った内容をそのまま垂れ流してしまったことは、秋水の名誉を傷つけるばかりでなく、歴史の真実をおおいかくしてしまうことであり、その罪は重い。

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Author:田中全(ぜん)
高知県四万十市(旧中村市)在住。
幡多と中村が自慢のおんちゃん。
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