幸徳秋水と中村

 3月20日、高知文学学校の第60期開校式が高知市カルポートであり、その記念講演を頼まれたので、「幸徳秋水と中村」と題して、話をさせてもらった。

 私は、地元生まれの秋水には以前から興味と関心をもっているが、詳しく勉強している訳ではない。だから、専門的な話はできない。しかし、私が市長在任中の2011年、秋水刑死百周年記念事業にかかわった。貴重な経験をさせてもらったことから、いまの市民が秋水をどうどうみているのか等、地元にとって秋水とは何なのか? について、私なりに思うところがあるので、その話をさせてもらった。
 要旨は以下の通り。

1・ 幸徳秋水刑死百周年記念事業は、官民12団体(市、市議会、区長会、商工会議所、観光協会、幸徳秋水を顕彰する会、など)が参加する実行委員会で取り組んだ。委員長は市長、事務局も市(生涯学習課)に置いた。

事業内容は、墓前祭、講演会、サミット、シンポジウム、展示会、演劇、市民啓発のための冊子の作成、市広報誌連載、市ホームページ拡充、観光パンフ、墓地周辺整備・・・など12。市の事業予算は約1千万円をかけた。

<四万十市ホームページ>http://www.city.shimanto.lg.jp/syuusui/index.html

市主導でこれだけ多彩な事業を行なうことができたのは、地元の秋水顕彰会を中心にして、長年、秋水の名誉回復、顕彰運動に取り組んできた実績・基盤があり、非戦や自由・平等・博愛を求めた秋水の思想や、大逆事件の真相(思想弾圧)への理解が広く市民の間に浸透しているから。
2000年には、市議会が顕彰決議を全会一致でおこなった。

大逆事件の犠牲者24人(死刑12人、無期懲役12人)は全国に散らばっており、各地で記念事業が行なわれたが、行政が主導したのは中村だけ。大逆事件の中心人物は秋水とされているだけに、その地元としての責任を果たせたと思っている。

2・ しかし、記念事業には県内外からたくさんの秋水ファンが参加をしてくれた割には、地元一般市民の積極的参加はそう多かったとは言えず、私が期待したほどではなかった。なぜか?

秋水は早熟で、わずか16歳で東京に出た。その後、日本を代表する思想家になったが、地元での活動実績等はなく、生活の痕跡のようなものも残っていない。地元としての馴染みや縁が少ないし、親近感のようなものがわいてこない。秋水は雲の上のような存在。

それと、いまだに秋水に対して、「極悪人」のイメージをぬぐいきれない市民がいるのも事実(特に高齢者)。

3・ 和歌山県新宮市(周辺)では、6名の犠牲者を出した。医師(大石誠之助)、僧侶(高木顕妙、峯尾節堂)など、地元で活動をしていた、なじみ深い人ばかり。だから、顕彰運動は地元に根を張ったものになっており、動員力も大きい。

しかし、だからこそ一方で、市民の間には、犠牲者に対する反発、拒否反応も根深いものがあり、いまなお行政は一線を引いている。岡山県井原市(森近運平が犠牲)では、市長は集会に来たことがない。
 
4・ 大逆事件のあと、秋水一族は地元の人々から迫害を受けるようなことはなかった。むしろ同情を受けたし、誇り高く生きた。
しかし、新宮、井原やその他の地では、一族は強い迫害を受け、地元を離れざるをえなかった者も多い。日蔭の生活を余儀なくされた。いまも、犠牲者のことをオープンに話しづらい雰囲気が残っている。

5・ 秋水の人物像は多面的だが、本質は、ジャーナリスト(新聞記者)であり思想家、理論家。 運動家(革命家)ではない。全13巻の全集を残しているように「文筆の人」。他の犠牲者とは別格的存在だった。だから事件の頭目、シンボルにさせられた。
秋水は漢文調の名文家。高知文学館には、秋水コーナーがある。この文学学校で学ぶにはふさわしい人。

6. 秋水は、死刑になる直前に「百年後、誰かわたしに代わって、言ってくれるであろう」との言葉を残している。
いまでは、秋水を、無実の罪で殺された「気の毒な人」と同情するよりも、自由と平等を守るためにたたかった「勇気ある人」と見ることが重要。
村木事件(冤罪事件)、特定秘密保護法、集団的自衛権、など、いまでも秋水が訴えた、非戦、自由平等、博愛、が実現をしているとは言えない。
 そこに、秋水や大逆事件に学ぶ、現代的意義がある。

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プロフィール

Author:田中全(ぜん)
高知県四万十市在住。
幡多と中村が自慢のおんちゃん。
幸徳秋水を顕彰する会事務局長。
FB(フェイスブック)もやっています。

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