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秋水と小澤征爾ファミリー(4)

2020.2.9からの続き

小澤征爾の祖父新作がかくまったという、幸徳秋水と取り違えられた人物は誰なのか?

続けて秩父事件関連の研究書等を読んでいたら、困民軍に参加した者の中に、落合寅市以外にも山梨県に逃れた幹部が二人いたことがわかった。

菊池貫平と島崎嘉四郎(かしろう)である。

先に書いたように、明治17年11月1日蜂起した困民軍は、明治政府が派遣した鎮圧軍隊により、早くも11月4日、皆野に陣取っていた本隊は総崩れとなり、総大将(総理)の田代栄作や加藤織平、井上伝蔵などは、姿を消した。

しかし、戦闘体制を維持していた部隊もあった。動揺、混乱の中ではあったが、戦いはまだ始まってばかりである。このままでは引き下がれない。戦闘意欲に燃えた者たち約250人は、新たに菊池貫平を総理に担いで、信州佐久方面に転戦することを決めた。

菊池貫平は弘化4年(1847)信州佐久郡北相木村生まれ。村内屈指の養蚕農家で代言人であり、自由党に入党。

秩父と佐久とは尾根伝い十石峠を越えて、古くから人や物の行き来があった。佐久の農民たちも困窮し、高利貸しからの借金に苦しんいたことでは同じであり、貫平は秩父困民党とつながっていた。

秩父蜂起にあたり、貫平は誘われ、井出為吉らとともに合流。困民軍は秩父、佐久、そして一部上州(群馬)を含めた連合軍となり、貫平は参謀長に就いた。

貫平は有名な軍律五か条をつくり、椋神社境内での総決起のさい、読み上げた。

一 私二金円ヲ略奪スル者ハ斬
一 女色ヲ犯ス者ハ斬
一 酒宴ヲ為シタル者は斬
一 私ノ遺恨ヲ以テ放火其他乱暴ヲ為シタル者ハ斬
一 指揮官ノ命令二違背シ私二事ヲ為シタル者ハ斬

困民軍はただの百姓一揆ではない、政府を倒すという、高い志と規律をもった軍隊であったことを示している。

もう一人、島崎嘉四郎は万延元年(1860)、上吉田村生まれ。「チガヤ(千鹿谷)の大将」と呼ばれ、地の利を生かしたゲリラ戦で警官隊を攪乱していた。30人を連れ、貫平に合流した。

貫平率いる250人は敗残部隊ではあったが、世直しの志は持ち続けていた。佐久に行けば、新たに農民がかけつけ、体制を立て直せるという算段があった。

実際、地元佐久での貫平の人望は厚く、馳せ参じる者もおり、炊き出し、宿泊等にも協力。秩父同様、高利貸し、銀行を襲撃した。

しかし、官憲は彼らを執拗に追跡。高崎からも新たに軍が投入された。

困民軍は佐久から南下していたところ、小海(東馬流)で包囲され、早朝一斉射撃を受け、あっけなく壊滅した(死者13人)。

山中に四散した困民軍の大半は、張り巡らされた追跡網で捕まったが(自首した者もいた)、菊池貫平と島崎嘉四郎は逃げ続けた。

菊池貫平は困民党最高幹部の一人であったことから、この間、欠席裁判で死刑を宣告された。

貫平は関東各地(東京、土浦など)に逃げあと、蜂起から2年後の明治19年12月、甲府の博徒のもとに偽名(小島和三郎)を使って身を隠していたところを逮捕された。

しかし、明治22年、帝国憲法発布の大赦によって無期懲役に減刑、北海道十勝監獄に送られた。さらに、明治38年、日露戦争恩赦により出獄。故郷の北相木村に帰り、大正3年没した(68歳)。

昭和6年、孫の高橋中禄が祖父から聞いたことなどを綴った「秩父一揆巨魁の逃鼠」という文章があり、上記逃亡先を書いているが、詳しい状況については触れていない。かくまってくれた人たちに塁が及ぶことから、語らなかったのであろう。

捕縛地が甲府ということは、同じ山梨県高田村の小澤新作とも接点があったかもしれないが、証拠はない。

島崎嘉四郎については、春田国男「幻歌行―秩父困民党 島崎嘉四郎の生涯」(1984年)に書かれている。

これによれば、嘉四郎は山梨県丹波山村に逃れたあと、甲府で偽名戸籍(千野多重)をつくって、馬車引きをしながら、所帯をもち潜伏。誰にも知られぬまま、大正8年没(59歳)。貫平と同じ甲府であるが、寛平が甲府に入ったのは貫平逮捕後であり、二人の接触はなかった。

甲府時代の嘉四郎の正体が明らかになったのは、ずっとのちの戦後の昭和58年(1983)のことである。

小澤新作は昭和10年没であるから、仮に新作が嘉四郎と接点があったとしても、この人物を「犯罪者」と認識することはない。だから、新作が「かくまった」のは嘉四郎ということはありえない。

以上の考察から、小澤新作がかくまったのが秩父事件の逃亡者であるという前提に立てば、現時点でその可能性があるのは、落合寅市と菊池貫平であろう。

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  菊池貫平
 



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Author:田中全(ぜん)
高知県四万十市(旧中村市)在住。
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